契約書の構成には一定のルールがあります
以下では、契約書一般的な形式・構成を全体の流れと各項目のポイントを述べています。
以下のポイントを理解すれば、契約書の見方やチェックの仕方が飛躍的に向上すると思います。
ぜひ参考としてください。
契約書の一般的な形式と構成
特に法律などで特別な定めがない限り契約書の形式は自由とされています。
どのような形式、構成をとっていても一定の要件※さえ満たせば、契約書は法的に有効となります。
しかしながら、プロが作るような契約書には、それなりの形式を整えており、構成についても一定の流れがあります。
一定の流れに沿った契約書は、読みやすく、分かりやすいものになります。
※ 契約書として最低限必要な3つの要件
最低以下の3項目があれば契約書として有効です。
1.いつ
2.誰と誰が
3.どんな約束をしたか
契約書の大きな構成上の流れ
契約書の一般的な構成は以下のような項目なります。
- 1)タイトル
- 2)前文 (ない場合もあり)
- 3)本文 ※
- 4)後文
- 5)日付
- 6)住所・署名(記名・押印)
※ さらに、本文の構成は以下のような順に書くのが一般的です。
- (1)契約の目的、言葉の定義など
- (2)契約の内容…契約の中心的部分
- (3)契約の不履行、損害賠償…万が一、契約が履行されないときの措置
- (4)解除・期間の満了…契約の終わり方と、それ以降のことがあれば記載します
- (5)紛争解決…準拠法や裁判所、紛争解決方法など
以下に、上記契約書の構成(1)~2、4~6)、3)(1)~(5))の各項目に関して説明します
1)契約書のタイトル(一般的には省略しないが省略しても法的には問題ない)
契約とは、当事者同士の法的な約束であり、形式は自由です。
契約を文書にしたのが契約書ですから、契約書もまた形式は自由です。
契約書の「タイトル」には、法的にはあまり意味がなく、契約書の意味は内容で判断されるものです。
単に「契約書」としても良いし、「○○契約書」、「覚書」「協定書」「合意書」等、名称は何であっても(あるいはタイトル無しであってもあ)内容が契約書として有効であれば契約書としての法的な効果を持つものです。
とは言え、当事者間で無用な混乱や誤解を招かないように、契約書のタイトルは、契約書の内容や目的を包括するような、分かり易いタイトルを付けることが大切です。(また、「○○契約書」のようなタイトルではかえって相手が身構えてしまい、ビジネスが上手くいかないような場合は、あえて、「○○について」等、ソフトのタイトルにすることも可です)
2)契約書の本文
契約書の本文は、この契約で何を具体的に約束したのかを最低1つ以上書きます。
(契約書の本文の各項目に関する説明は、6)契約書の住所・署名の後に説明しています)
3)契約書の前文(前文を置かない形式の契約書も多い)
契約書の前文では、誰と誰がどのような契約を結んだかなどを書きます。
また、契約書の目的や意義をここで述べる場合もあります。
(例)○○株式会社(以下「甲」という)と株式会社XX(以下「乙」という)は、△△の目的のため、□□契約を締結する。
4)契約書の後文
「以上、本契約の成立を証するため、本書2通を作成し、甲乙各記名押印のうえ、各1通を保管する。」
の決まり文句を付けます。
5)契約書の日付
「この契約書はいつ成立したか?」を明示するために、日付は必須です。
6)契約書の住所・署名(記名・押印)
「誰と誰が本当に契約した」事実を明らかにするために、署名(記名・押印)は大切です。
法的には、実筆による著名=記名・押印と同じ効果を持ちます。
本人確認の証拠力を高めるために押印は実印として印鑑証明を付ける場合もあります。
3)(1)契約の目的、言葉の定義など
契約書の作成において、最初の条項は、目的、適用範囲、定義などで、何れも、とても大切な条項です。
目的・・・・契約の目的のことです(目的は前文に書く場合もあります)
契約とは、何らかの目的の為に、新しい法的な関係を創ることです。その、契約の目的の部分を明記します。
目的は、「甲と乙は○○の為、○○契約を締結する」のような、あっさりとした記述方法と取る場合と
「甲と乙は、互いの○○を〇〇し、○○する為に、○○関係を構築しいっそうの○○を実現する為に○○契約を締結する」のような、契約の理念まで踏み込んで記述する方法があります。
何れの場合であっても、ここで定めた目的を実現する為の有効な手段として、以下に続く条項が規定されます。
適用範囲
適用範囲とは、この契約がいったいどの範囲まで適用されるのかを具体的に明確にするものです。
(なお、ここで言う範囲とは内容の範囲であり、時間的範囲は別に期限を別に定めます)
例えば、販売代理店契約であれば、どの商品を対象とした契約なのか、
あるいはどの地域を対象とした契約なのか、等の具体的な契約の前提となる領域を明確とするものです。
適用範囲を定めるときは、第三者が判断できるような言葉で具体的に定めることが大切です。(当事者だけが分かる言葉で定めた場合、万が一、当事者同士の見解が分かれた場合に、第三者が判断できない)
言葉の定義
当事者及び第三者など、各人によって、解釈が異なる可能性がある言葉について、
本契約上の言葉の定義を明確にしておくことが大切です。
(例)「検収とは、甲が乙に商品を納め、乙が検品を完了した時点を言う。
但し、甲の責でなく、乙の検品が1週間以上滞った場合は、検収が
あったものとして取り扱う。」
3)(2)契約の内容…契約の中心的部分
契約の内容とは、一言で言えば、義務と権利のことです。
すなわち、この契約により、甲や乙が、前段で定めた契約目的の為にしなければならないこと(あるいはしてはならないこと)=義務。することができること(あるいは得ることができること)=権利。の内容を示すことです。
さらに中間的なものとして、目指すべきこと=目標。を明示する場合もあります。
義務は、○○しなければならない(してはならない)。
○○することとする。
○○する(○○できない)。のような表現をします。
権利は、○○することができる。○○しても良い。
のような表現をすると共に、
相手側の義務が自身の権利となる場合もあります
(例:甲は乙に対して○○をしなければならない
=甲にとっては義務だが、乙にとっては権利となります)
目標は、○○を目指す。○○するように努力する。のような表現を
します。
「努力目標は義務を伴わない為、条項として作成しても
意味がない」とする意見も多くあります。
確かに努力目標を守らなかったことを理由に相手を訴えることは難しいので法的な意味は低いです。
しかしながら、契約書には、
契約の目的を達成する為と言った本来の目的があります。
契約の目的を達成する為に目標を定め、互いに検証して行くことは、契約の目的達成の為にとても大切なことです。
(例)1年目の販売目標は、○○円とする
上記の目標達成の為、毎月、原則〇○日に、定期的な打ち合わせを行い、
目標の進捗状況の確認と目標達成の為の対策を協議することとする。
3)(3)契約の不履行、損害賠償…万が一、契約が履行されないときの措置
契約の不履行とは、
契約内容が実行されない場合(あるいは禁止事項が守られなかった場合)の措置について明らかにするものです。
契約の不履行の結果として、損害賠償や契約の解除が行われます。
損害賠償や契約の解除については、契約書に特に定めがなくても、
民法の一般的な損害賠償の規定(民法第415条、416条)や
契約解除の規定(民法第540条、541条、543条、545条)
が適用されます。
(債務不履行による損害賠償)
第415条 債務者がその債務の本旨に従った履行をしないときは、債権者は、これによって生じた損害の賠償を請求することができる。債務者の責めに帰すべき事由によって履行をすることができなくなったときも、同様とする。
(損害賠償の範囲)
第416条 債務の不履行に対する損害賠償の請求は、これによって通常生ずべき損害の賠償をさせることをその目的とする。
2 特別の事情によって生じた損害であっても、当事者がその事情を予見し、又は予見することができたときは、債権者は、その賠償を請求することができる。
(解除権の行使)
第540条 契約又は法律の規定により当事者の一方が解除権を有するときは、その解除は、相手方に対する意思表示によってする。
2 前項の意思表示は、撤回することができない。
(履行遅滞等による解除権)
第541条 当事者の一方がその債務を履行しない場合において、相手方が相当の期間を定めてその履行の催告をし、その期間内に履行がないときは、相手方は、契約の解除をすることができる。
(履行不能による解除権)
第543条 履行の全部又は一部が不能となったときは、債権者は、契約の解除をすることができる。ただし、その債務の不履行が債務者の責めに帰することができない事由によるものであるときは、この限りでない。
(解除の効果)
第545条 当事者の一方がその解除権を行使したときは、各当事者は、その相手方を原状に復させる義務を負う。ただし、第三者の権利を害することはできない。
2 前項本文の場合において、金銭を返還するときは、その受領の時から利息を付さなければならない。
3 解除権の行使は、損害賠償の請求を妨げない。
契約の不履行に関する契約書条文例
(債務不履行)
甲及び乙は、相手側が本契約に定める債務を履行せず、当該債務を履行する通知をした後30日以内に解決しない場合は、本契約を解除することができる。
(違約金)
乙が正当な事由なく債務の履行を遅延した場合は、甲に対し債務の履行に加え、違約金として、履行期日の翌日から履行日まで年率14.5%の損害違約金を支払うものとする。
(損害賠償)
甲及び乙は、本契約に違反して相手方に損害を与えたとき、その損害を賠償するものとする。
3)(4)解除・期間の満了…契約の終わり方と、それ以降のこと
契約の解除、契約の満了とは、契約の終わり方の問題です。
つまり、この契約はどんな場合に終わるのか、あるいは終わりに
することができるのかと言った条項です。
この条項は契約書にとってとても大切な条項です。
いつでも簡単に辞めることができる契約が良いのか
簡単にはやめることができない契約が良いのか契約の目的によって定めることが大切です。
不平等な契約では、契約作成者の側だけが自由に契約を終了させることができ、相手側は、簡単には契約を辞めることが できないような条件になっている場合がありますので注意が必要です。
なお、契約を辞めるときには、そのことを文書で明確にした方が良い場合も多いでしょう。
でないと、契約書を見ただけでは、その契約が現在も有効なものであると判断されかねません。
また、契約を終了したとき、契約終了前までに有効であったことでなお、継続させる必要があるもの
(例:秘密保持規定など)などはその旨を明記することが必要です。
3)(5)紛争解決…準拠法や裁判所、紛争解決方法など
準拠法の規定は、国内取引の場合は国内法が使われますので、 わざわざ記述する必要はありませんが、国際取引の場合、 どこの法律を使うかが重要な意味を持ちます。また、国内取引であっても外資系企業と取引する際には、 本国の法律を適用しようとする場合があるので注意が必要です。
管轄裁判所は万一争いになった場合、どこの裁判所に提訴するか
を記載します。
紛争解決方法とは、「
本契約に定めのない事項、または本契約の解釈に関して疑義が生じたときは、甲乙誠意をもって協議の上、これを決定する。」
のような日本国内の契約特有の条項です。